心と響き合う読書案内』 目次
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小川 洋子(おがわ・ようこ) 080/P56/578
 1962年岡山県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業。88年「揚羽蝶が壊れる時」で第7回海燕新人文学賞、91年『妊娠カレンダー』(文春文庫)で第104回芥川賞を受賞。2004年『博士の愛した数式』(新潮文庫)が第55回読売文学賞、第1回本屋大賞を受賞。
 他の主な作品に『ブラフマンの埋葬』(講談社文庫、2004年第32回泉鏡花文学賞)、『ミーなの行進』(中央公論新社、06年第42回谷崎潤一郎賞)、『猫を抱いて像と泳ぐ』(文藝春秋)などある。(同書「著者略歴」より)

わたしと小鳥とすずと
 
 金子 みすず 911.58/Ka53
 純一個人の感情を越えた寂しさ、切なさ: 著者は、大正から昭和にかけて作品を発表した童謡詩人です。「わたしと小鳥とすずと」のほか、「星とたんぽぽ」「ふしぎ」など、その作品の一部は小学校の国語の教科書にも掲載されています 
ながい旅    大岡 昇平 080/Ka14/14682 
 謝罪する時にこそ、人間の本質があらわれる: 第二次世界大戦後、B級戦犯として起訴された岡田資(たすく)中将の軍事裁判を追ったノンフィクションです。第13方面軍東海軍管区司令官(昭和20年着任)であった岡田資中将の裁判の記録とその言動が、大岡昇平さんの緻密な取材によって明らかにされています。昭和57(1982)年に新潮社から発表され、平成19(2007)年に『明日への遺言』というタイトルで映画化されました。 
蛇を踏む
 川上 弘美 080/B89/文48
 冒頭から読者を底なし沼に引きずり込む小説: 平成8(1996)年に第115回芥川賞を受賞した小説です。主人公はカナカナ堂という珠数屋さんで店番をするヒワ子。ある日、彼女が出勤の途中に通ったミドリ公園で蛇を踏んでしまうところから物語は始まります。
檸檬    梶井 基次郎 080/Sh61/122 
 日本的な歓声の中に、エンジニア的な観察眼を持ち込む: 「檸檬」は文庫本(『檸檬』新潮文庫)にして7ページという短い小説ですが、日本の近代文学を代表する名作としていまも輝いています。主人公の「私」は、「得体の知れない不吉な塊(かたまり)」をかかえて、京都の町をさまよい歩きます。そこで見つけた果物店の檸檬。その美しさに惹かれ、檸檬を持って丸善へ行き、爆弾に見立ててそれを画集の上に置いてくる、という話です。 
愛人 ラマン  マリグリット・デュラス 908/I35/1-04 
 「十八歳で年老いた」少女を描く自伝的小説: フランス人の作家マルグリット・デュラスは、1914年、フランス領インドシナで生まれました。デュラスが70歳の時著した『ラマン』の舞台もその地です。15歳の少女の愛と性を描いた小説で、自伝的作品といわれています。1984年に刊行されて世界的ベストセラーになりました。 
秘密の花園    バーネット 918.6/D49/70
 自然と向き合うことで、自らが生きる意味に触れる: 児童文学の名作ですから、子供の頃に読んだ方も多いと思います。主人公はメアリという少女です。彼女はインドで両親を亡くし、その後イギリスのヨークシャーで暮らすおじさんのもとに引き取られます。メアリがどんな少女だったのか、第1章で、「ちょっと可愛そうなほどに」描写をされています。  
片腕  川端 康成  
 貴方なら、ご自分の身体のどこを男に貸しますか?: 「片腕」は昭和38(1963)年の8月から翌年1月にかけて『新潮』には表された、移植の作品です。ふだんは心の奥底に抱えていて、理性で押し隠している部分。人には知られたくない、また自分でもどう扱っていいのかわからない暗闇。それを容赦なく描き出した一片といえるでしょう。
窓ぎわのトットちゃん  黒柳 徹子 916/Ku78
 大人と子供の理想的な関係: 昭和56(1981)年に発表された、黒柳徹子さんの自伝的エッセイです。彼女が子どもの頃、実際に通っていた小学校、トモエ学園が舞台となっています。日本国内で750万部を越える戦後最大のベストセラーとなりました。  
木を植えた男  ジャン・ジオノ 953.7/G47
 仕事の成果が見られないことの喜び: 南フランス、プロンバンス生まれの作家ジャン・ジオノの『木を植えた男』は、現在単行本や絵本などさまざまな形式で出版されています。私(小川洋子)が読んだのは、山本省(さとる)さん訳(彩流社)のプロバンス地方の写真が沢山載っている一冊です。フランスの山岳地帯に一人とどまり、何十年間もの間、どんぐりを埋め、木を植え続け、荒れ果てた地に森を甦らせた男エルゼアール・ブフィエの物語です。 
銀の匙
    
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 中 勘助 080/Ka92/7496
 少年の描写において並ぶもののない名作: 作家で詩人である中勘助の、自伝的小説といえるのがが『銀の匙(さじ)』です。銀の匙とは、主人公が大切に書斎の小箱にしまっている、銀の小さなスプーンのことです。−略- 少年の内面をここまで繊細に描き出した作品はほかにないと思えるほどです。
流れる星は生きている  藤原 てい 080/C64/中35
 子供を守ろうとするすさまじい母親の愛情: 藤原ていさんは、作家新田次郎の奥様であり、数学者藤原正彦先生お母様でもあります。『流れる星は生きている』は、第二次世界大戦が終わったばかりの昭和20(1945)年、ていさんが三人の幼子をつれて満州から日本に引き揚げてきた時の体験を綴った作品で、戦後ベストセラーになりました。  
羅生門  芥川 龍之介 080/Sh61/1804  918.6/A39/28  
 飾りのない文章こそが美しい: 優れた短編小説の第一条件は、書き出しのよさにあるのではないでしょうか。この「羅生門」の書き出しも、忘れがたい魅力を放っています。古めかしい用語が多くて一見堅苦しいようですが、声に出して読んでみるとすんなり耳に入ってきます。決してややこしいことを表現しているわけではありません。一切の無駄を排し、研ぎすまされた最小限の言葉だけで、鮮やかな情景を浮かび上がらせています。 
山月記     中島 敦 080/Sh61/1895
 男はなぜ虎に変身したのか: 明治から昭和にかけて生きた作家中島敦。33年という短い生涯の中で残した作品は二十編足らずです。その中でも特に知られているのが、短編「山月記」。中国唐代の伝記「人虎伝(じんこでん)」を題材にして綴られた物語です。
変身  カフカ 080/Ka14/520  080/Sh61/393 
 人間が虫になる不条理よりも不気味なもの: 物語の主人公は、平凡なセールスマンのグレゴール・ザムザ。彼がある朝不安な夢から目覚めてみると驚くようなことが起きていました。ベッドにいる自分の姿が、とてつもなく大きな一匹の虫に変わっていたのです。 
父の帽子  森 菜莉 080/Ko19/講文2
 父に溺愛された娘の自由自在な精神: 森茉莉(もりまり)は、明治36(1903)年に文豪鴎外の長女として生まれました。鴎外が41歳の時の子どもだったこともあって、小さい時からかわいがられ育ち、父の膝に、16歳の頃まで座っていたというエピソードも残っています。鴎外が亡くなって35年たった昭和32(1957)年に、初めて出版した随筆集がこの『父の帽子』です。随筆集の中の「父の帽子」は、文庫本でたった4ページの随筆ですが、森鴎外の父親としての姿がすべてここに表現されているといってもいいでしょう。
モモ    ミヒャエル・エデン 080/I95/少127
 時間を心で感じられなくなったら読みたい本: モモはいつも裸足で、髪の毛は一度も梳(と)かしたことがなく、クシャクシャ。廃墟になった円形劇場を住処としています。町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、不思議と幸せな気持ちになります。そんなある日、町に灰色の男たちがあらわれます。実は彼等は時間泥棒で、人々の時間を盗みにやってきたのです。この時間泥棒から盗まれた時間を取り戻そうとするのがモモです。
風の歌を聴け  村上 春樹  080/Ko19/講41
 言葉では書けないことを言葉で書く: 『風の歌を聴け』は、昭和54(1979)年6月、群像新人文学賞に輝いた村上春樹のデビュー作品です。−略−1970年の夏が舞台になっています。故郷の町に帰った大学生の主人公の「僕」と「鼠(ねずみ)」というニックネームの友人、レコード店に努める女の子とのかかわりを、断片的に組み込んでゆくようにして書かれた小説です。ストーリーだけ説明しても、どんな小説かわかりづらいかもしれませんが、いってみれば主人公の思い出話です。しかし決してありふれた単純な思い出話ではありません。
家守奇譚』   梨木 香歩 080/Sh61/8005
 どれくらいの不思議まで人は許せるのか: 児童文学作家でもある梨木果歩(なしきかほ)さんが、平成16(2004)年に発表した『家守奇譚(いえもりきたん)』。「サルスベリ」から「葡萄(ぶどう)」まで、季節の移ろいにあわせた植物の名前がついた28章からなっています。−略−主人公は新米精神労働者と気取って名乗っている、いちおう物書きの綿貫征四郎という男。彼は、行方不明になった親友の高堂の実家で家守、つまり留守番として暮らすようになります。庭には湖につながる池があって、綿貫征四郎はその家で気ままに原稿を書いています。
こころ  夏目漱 石 918.6/N57/16 918.68/N58/7
 恋とは罪悪であり、神聖なものである: 若い時に大勢の人が出合う文学作品として、いまでも長く読み継がれている貴重な小説です。学生だった主人公が、ふとしたことで知り合った「先生」に心惹かれ、やがてその先生の過去の秘密を知ることになります。先生の秘密とは、親友のKを裏切って恋人を手に入れたあと、Kが自殺してしまったというもの。罪悪感に苦しんだ末、結局先生自身も死を選んでしまいます。
銀河鉄道の夜』   宮澤 賢治 080/Sy9/集15
 「永遠」を感じることで、気持ちが楽になる: 宮澤賢治の作品を読み返すたびに、彼はほかの作家の誰とも違う、誰とも似ていないということを感じます。何といったらいいのでしょう。文学の世界にもたくさのきらめく星がありますが、宮澤賢治だけは、一番星のように、一人高いところで静かに光を放っています。−略−宮澤賢治は星や石、人間がつくったものでないもの、あるいは無機物などに物語を託します。そういうものを使って物語を描くところが、独特で新鮮です。
バナナフィッシュにうってつけの日  J・D・サリンジャー 080/Sh61/2230
 誰の心の中にもバナナフィッシュはいる: 私は生まれてからずっと瀬戸内海沿岸に近い場所で暮らしてきました。そのせいか、海を背景にした小説に無条件に心惹かれる傾向があります。中でも「バナナフィッシュにうってつけの日」は、繰り返し読み返す大事な作品です。この作品は、『ナイン・ストーリーズ』という自選短編集に収められています。
はつ恋  ツルゲネーフ 080/I95/886
 人間の複雑さを写す鏡としての父親: 文庫本(新潮文庫)で130ページ弱と薄い作品ですが、内容には重量感があります。タイトルのイメージから、甘酸っぱい初子の思い出を描いた小説を予想すると、すぐに裏切られたことになります。そんな生やさしい話ではないと気づかされます。これは初恋を描いた小説であるとともに、父と息子の物語です。息子が父親を仰ぎ見て、ぶつかっていって、そしてどのように乗り越えていくかを描いています。
阿房列車  内田 百聞 080/C44/ち14
 生産性のない、無目的な旅が持つ自由: 昭和26年(1951)年頃から発表された紀行文で、日本国内の列車の旅(旧国鉄)の楽しさが綴られています。その後、『第二阿防列車』『第三阿防列車』としてまとめられました。 
昆虫記  ファーブル 080/I95-1,2/少513-4
 神様が施した秘密の仕掛けを、味わって読む: 偉大な自然の生き物である昆虫には、さまざまな秘密があります。その秘密をやさしく解き明かしてゆくという知的な喜びを、ファーブルの『昆虫記』は与えてくれます。
アンネの日記  アンネ・フランク 949.3/F44
 言葉によって、人間は自由になれる: 第二次世界大戦中、ナチスドイツ占領下のオランダ、アムステルダムで二年以上にわたり隠れ生活をしていた少女、アンネ・フランクが残した日記です。生き延びた父親によって出版され、世界的ベストセラーになりました。
悲しみよこんにちは  フランソワーズ・サガン 908/I35/1-04
 自分の理論に合わない人を受け入れられない悲しみ: サガンが18歳の時に欠いた処女作で、1954年に発表されて瞬く間にベストセラーになりました。
ジョゼと虎と魚たち  田辺 聖子 080/Ka14/6619
 男の子なら愛さないではいられれないジョゼの女心: 平成15(2003)年に映画化され、若い主人公の二人を妻夫木聡(つまぶきさとし)さんと池脇千鶴(いけわきちづる)さんが演じて話題になりました。凝るまい巣の女性ジョゼ(本名はクミ子)と大学生の恒夫、二人の出会いから、やがて同棲するまでを描いた短編です。
星の王子様  サン・テグジュペリ 080/Sh61/7929
 肝心なことはいつでも心の中にある: サハラ砂漠に不時着した飛行士が、小さな星からやって来た王子に出会うことからはじまる有名な童話です。作者はアントワーヌ・ド・サン・テグジュペリ。作家であり、飛行士でした。1943年の刊行です。日本では1952年に発表されていますから、50年以上も多くの人に愛されている不朽の名作です。
日の名残り  カズオ・イシグロ 080/H46/4766
 慎ましさが美しい、英国の執事の物語: 主人公は初老の執事です。そろそろ人生の残り時間が見えてきて、成功も後悔も失敗もすべて含めて、自分の過去を辿っていく小説です。1989年に発表され、英国最高の文学賞といわれるブッカー賞を受賞しています。映画化もされ、主人公の執事をアンソニー・ポプキンスが演じたことで話題になりました。
ダーシェンカ』 
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 カレル・チャペック 989.5/C16
 ほんとうに犬を愛している人が描いた極上の犬本: チェコの作家カレル・チャペックが自分の家に生まれた子犬の成長について文章と絵と写真で紹介した本です。出版されたのは1933年。次の年には日本でも紹介されていて、その本には作家で詩人の佐藤春夫の序が寄せられています。 
うたかたの日々  ボリス・ヴィアン 080/H46/4913
 「ピアノカクテル」「雪もぐら」」……常識無視の純愛小説: ボリス・ヴィアンは作家としてだけでなくて、俳優、歌手、ジャズトランペッターとしても活躍し、パリのサンジェルマン・デ・プレにあるクラブで演奏していたという才能豊かな人でした。−略−『うたかたの日々』は、パリに暮らす青年コランとその恋人クロエの物語です。60年以上前に発表された作品ですが、いま読んでもとても新鮮でおしゃれな魅力をたたえています。
走れメロス  太宰 治 918.6/D49/70 080/Sh61/633
 研ぎ澄まされた肉体のように美しい文章: 印象深い書き出しで、この短編小説ははじまります。いま同じ小説家として読み返してみますと、まず文体がすばらしい。とてもテンポがいい。まるで無駄な脂肪がないマラソンランナーのとぎすまされた肉体のようです。このテンポのいい文章のリズムが緊迫感を高めていて、命がけで走るというテーマにぴったりです。
奥の細道  松尾 芭蕉 080/I95/30-206-2
 「荒海や佐渡によこたふ天河」は数学にも通じる: 元禄2(1689)年の陰暦3月27日、江戸深川を出発して、陸奥(みちのく)をめぐり、9月6日に伊勢に向けて大垣を出発したところまで記されている松尾芭蕉の旅は、もちろん単なる物見遊山の旅ではありません。古来有名な和歌に詠まれてきた名所、歌枕といいますが、そこを訪れその地の歴史に思いを馳せ、昔の歌人たちと感動を共有しながら、松尾芭蕉自身も自分の俳諧の修行をするという芸術的な旅です。
錦繍  宮本 輝 080/Sh61/3401
 一通ごとに成長していく、元夫婦の往復書簡: 紅葉に染まる山形・蔵王の風景からはじまり、最後は京都・山梨の紅葉を背景にして終わる宮本輝さんの『錦繍』は晩秋の季節に読み返したくなる作品です。かつて夫婦だった男女間でやりとりされる往復書簡という形式をとっています。
園遊会  マンスフィールド 080/Sh61/1077
 死の意味を一瞬でつかみとった少女の感受性: 「園遊会」、現代はそのまま"The Garden Party"。女流作家キャサリン・マンスフィールドの代表作です。彼女は、1888年にニュージーランドで生まれ、少女時代から芸術に憧れ、ロンドンに遊学、そして、処女短編集を1911年に発表、以後、英国で作品を発表し続けた作家です。1922年、『園遊会、その他』という短編小説集を出版した翌年にパリ郊外で34歳の若さで亡くなります。
朗読者  ベルンハルト・シュリンク 943.7/Sc3
 強制収容所で犯した罪を償うために、本を読む: 1955年にドイツで出版され、5年後には20以上の言語に翻訳されます。アメリカでは2百万部を越える売上げを記録しました。
死の棘  島尾 敏雄 080/Sh61/2687
 たった一つのことを書き尽くした小説: 十年にもわたる不倫が妻の知るところとなり、そのことによって、妻は精神に異常をきたしてしまう。そこからはじまる夫婦の壮絶な日常を綴ったのが『誌の棘』です。この作品の得意なところは、たった一つのことしか書かれていないという点です。夫婦の葛藤。そのたった一つのことを書いて書いて、書き尽くす。その結果、それが文学になっているのです。
たけくらべ  樋口 一葉 080/I95/31-025-1 908/C44/2
 ちりめんの赤色に映える恋の哀切: 樋口一葉が代表作「たけくらべ」を発表したのは明治28(1895)年。すでに口語体の小説が書かれていたじだいにもかかわらず、あえて一葉は古語まじえた擬古文を用いています。この擬古文は声を出して読んでみると独特のリズムが耳に心地よく、日本語が本来もっている波長を身体で感じとることができます。
思い出トランプ  向田 邦子 080/Sh61/3009
 手を振るわせながら一枚一枚めくっていくトランプ: 向田さんの小説は、脚本家独特の視点から綴られていると思います。まずこの小説語り手にはすべてが見えているな、と思わせる不気味さがあります。たとえば、食器戸棚にどんな食器が並んでいるか、お父さんがどんな柄のチョッキを着ているか。小説では焦点のあった部分だけを描写しますが、テレビドラマでは一瞬でもパッと移れば、そこに全部見えてしまう訳です。ですから脚本家は、すべてが見えていないといけない仕事ではないだろうか、と想像できます。 
グレート・ギャツビー  スコット・フィッツジェラルド 080/Sh61/2175
 絶望という一点にのみ突き進んでゆく悲劇: これはなかなか残酷な小説です。ニューヨーク郊外の豪邸に住み、絢爛豪華なパーティを開く謎の男、これがギャツビーです。なぜ彼がそこに暮らし、派手なパーティを開いているのか。彼はかつての恋人デイジーへの思いを断ち切れず、対岸に暮らす彼女に、自分の存在に気付いてもらいたい、という夢を持っているのです。
冬の犬  アリステア・マクラウド 933.7/Ma21
 玄関の島に暮らす少年と犬の別れを、淡々と描く: 冬の厳しさと美しさを背景に、遠い過去から引き継がれる死の記憶を、胸の洞窟におさめるようにして生きる人間たちを描いた、八編からなる短編集です。舞台はカナダ東端に位置する厳冬の島、ケーブ・ブレトン島。登場人物たちはそれぞれ異なっていますが、前編に流れる空気には統一されたものがあります。 
賢者の贈り物  O・ヘンリ 080/Sh61-2/1812
 クリスマスの話には貧乏が似合う: 若く貧しい夫婦、ジムとデラ。二人はクリスマスプレゼントを買うお金がありません。そこで妻のデラは、自分の美しい髪の毛を、夫のジムは宝物にしている金時計を売って、そのお金で相手に送るクリスマスプレゼントを手に入れるのです。
あるクリスマス  トルーマン・カポーティ 933.7/C16
 互いに愛を求め合いながらすれ違う父と子: 『あるクリスマス』に描かれているのは、6歳の少年バディーがお父さんと一緒に過ごしたクリスマスの思い出です。トルーマン・カポーティは『冷血』という存在感のある作品を書いた作家としてのイメージが強く、その彼が晩年、クリスマスについてこんなに率直な作品を残していたのかと、少し意外に感じました。
万葉集   080/Ka14-1,2/5841-2
 「自分のために読まれた歌」が必ずある: 歌集のよさは、気が向いたときに好きなところをパッと開いて読めることです。高校三年生のときからずっと変わらず、どこに引っ越そうと、必ず『万葉集』は勉強机のすぐ手の届くところに置かれていました。それを開くたび、千三百年も前の人間と、会話し合うような感覚を味わいました。顔も知らない、すでに死んでしまった人々と会話するという、読書が持つ根本的な喜びの一つを『万葉集』に教えてもらったのです。
和宮様御留  有吉 佐和子 080/Ko19/講37
 和宮様は替え玉!?女性はたくましく、男性は腰砕け: 『和宮様御留』の舞台は、日本が開国を迫られていた幕末。調停と幕府がひとつになって国の大事を乗り切ろうと公武合体をとなえていた時代です。そこで持ち上がったのが、皇女和宮を江戸幕府の第14代徳川家茂に嫁がせるという話です。まず、和宮様が替え玉であったというショッキングな設定を、有吉佐和子さんがじつにうまく歴史的な事実の中に組み込んで、ストーリーを展開していることに感嘆します。
十九歳の地図  中上 健次 080/Ka92/河1
 主人公の理由なき怒りに、和歌も葉共感必至: 主人公である吉岡は新聞配達をしながら予備校に通う、まさに19歳の青年です。この青年が抱えているやり場のない怒り、苦しみ、暴力への衝動を描いた作品です。なぜ怒っているのか、なぜイライラしているのか、その理由が自分でもわからない。利湯がない、という点がポイントです。だからこそ、社会や家族のせいにもできず、友人と共有することもできないまま、ただ自分の内なる猛獣の前で立ちすくんでいるのです。誰もがうまく表現できずに、もてあましているこのひりひりした痛みを、痛みのままリアルにさらけ出したのが、中上健次ではなかったでしょうか。
車輪の下  ヘッセ 080/Sy9/集14  080/Sh61/273
 明日のことを気にしない子ども時代の大切さ: この作品が発表されたのは1906年、その後、およそ100年間、世界中で親しまれ、読み継がれている小説です。主人公のハンス・ギーベンラートという男の子は、生まれながらに豊かな才能を持っていて、エリートとよばれる神学校に見事合格します。しかし学校の生活がはじまってみると、思い描いていた理想とは違い、心を踏みにじられるような警官を味わいます。結局、彼は学校を止めて、見習い工として出直す決心をします。
夜と霧  V・E・フランクル 946/F44/1-2
 究極の残酷さを描きながらなお、世界の美しさを伝える: これまで何度読みかえしたかわからない本です。自分の人生の状況が変わっていく節目節目で読みかえし、そのつど新たに教えられることが多くあります。十代で最初に読んだとき、最も驚いたのは、フランクルが誰も恨んでいないということでした。まったく理不尽にそれまでの人生のすべてを奪われたにもかかわらず、誰かを恨んだり、恨み辛みを吐露したりしてはいない。そこが不思議でもあり、同時に人間のすばらしい一面を見たと思ったのです。人間は、恨みや憎しみによって、立ち直れないのだ、ということを知りました。
枕草子  清少納言 813.6/Su96/閲覧(CD朗読)
 刺繍の裏は「むつかしげ」: 平安時代の中期、西暦1000年以降に成立したとされ、およそ300の章段からなっています。特によく知られているのが、第一段。「春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく……」この第一段は春夏秋冬の好ましい風趣を完結に記した、四百詰め原稿用紙一枚分ほどの文章です。その中に日本の四季を見事に表現しています。
チョコレート工場の秘密  ロアルド・ダール 993.7/D13
 チャーリーとともに、親子で楽しむ工場見学: 子どもだけでなく、大人も楽しめる本です。主人公の少年チャーリーの住んでいる町には世界一広くて、世界一有名な「ワンカのチョコレート工場」があります。しかし、働く人を誰も見たことがないという謎の工場です。そこにチャーリーをはじめ5人の子どもたちが招待されることになりました。
富士日記  武田百合子 080/C64-1-3/中30-2
 転載の日記は献立を読むだけでも楽しい: 作家武田泰淳(たいじゅん)の奥さま、武田百合子さんの作品です。昭和39(1964)年7月から51(1976)年9月まで、富士山の麓で暮らした13年間を綴った日記です。日々の献立や、買い物の内容など、ほとんどカレンダーの余白に書かれたような数行が、どうしてこんなに心を打ち、文学を読む喜びを与えてくれるのか、本当に不思議です。かつて出合ったどんな文学とも似ていない、希有名作品です。
100万回生きたねこ  佐野 洋子 913.8/Sa66
 ほんとうに死ねるということは、幸せなこと: これだけ何度も「死」という言葉が出てくる絵本は、あまりないのではないでしょうか。とにかくそのねこが、いろいろな人に出会い、いろいろな死に方をしていくというのが、前半の流れです。−略−子どもは子どもなりに「死ぬとはどういうことだろう」と、日々考えていると思います。この絵本は、死がただ、怖いだけのものではないということ、生きていることの続きにあるものだ、ということを示唆してくれます。

                注1 「目次」の内容は、『心と響き合う読書案内』(PHP新書/小川洋子)より引用

                注2 青字は、請求記号(本学図書館で原書を捜すときに参照してください)

                

                

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